KADOYAGUMI SPECIAL CONTENTS200年先にあるもの門屋光彦社長インタビュー

2023年10月、歴史をつないで8棟目となる新社屋が完成

ー感動を与える建物づくりに取り組み、地図に歴史に人の心に留まる建物を見守り続けるー

伝統精神である「誠実一途」と「顧客本位」を堅持しつつ、創業200年に向けて全社一丸となって挑む
2023年10月、地場ゼネコンの㈱門屋組が、創業111周年記念プロジェクトとして建設を進めてきた新社屋が完成した。「SDGs宣言」、「健康経営宣言」を行なっている同社らしく、多目的に使えて、災害時には地域住民の避難場所ともなる大会議室、トレーニングルーム等を備えた新たな本社ビルである。
門屋組の創業は明治43年(1910年)であり、今回の新社屋は7練目から51年、8練目の事業拠点となる。門屋光彦社長に、コロナ禍の中で新社屋建設に踏み切った経緯や社長の思い、綿々と継承されてきた同社の伝統精神と4代目としての新たな理念、今後の事業展開などについて語ってもらった。

未来を見据えて優秀な人材を確保するため、敢えて立派な社屋を建設

ー新社屋の完成、おめでとうございます。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けたものの、創業111年周年記念プロジェクトとして取り組み、門屋組としては、51年ぶりの8練目の社屋になったと伺っています。まずは、新社屋建設の経緯とこのプロジェクトに対する社長の想いからお願いします。

門屋:私が思い描いてきた夢の達成においては、まず門屋組という歴史ある建設会社の社長になることでした。その次の夢は、いろいろありますが、中でも大きかった一つが、半世紀を経た社屋の建て替えでした。
そこで、創業110年を迎えた2020年、次の10年、即ち2030年に向けた10年指針の中で、110周年記念プロジェクトとして、新社屋の建設計画を打ち出しました。
ところが、その直後の新型コロナウィルス感染症のパンデミックです。世界中が大混乱に陥る中、私たちの記念プロジェクトも休止に追い込まれました。しかし、いつかは着手しなければならない事業であり、問題はいつやるかです。そんな想いで迎えた翌年、門屋組は創業111年の時を迎えました。111年は「1」が3つ並ぶという珍しく、奇妙奇天烈な節目となり、この機を外してはならない、そう決断し、創業111年記念プロジェクトとして、改めて新社屋建設計画を進めました。
このプロジェクトを推進するに当たり、私には様々な想いがありました。創業者である門屋留一郎以来の「マル留」の精神を未来につなぐために、父である門屋齊会長の元気なうちに、本気・本音の全社一丸となるために、会社に潜むムダ・ムリ・ムラを取り除くために、1人でも多くの社員の健康増進につなげるために、そして、地域と共に歩むという理念を社屋として体現するために、などなどです。
そうした中で最も大きかったのは、創業200年という未来を見据え、門屋組の歴史を確実に積み重ねていくことでした。
私たちの事業規模からすれば、今回のような新社屋の建設は、異例といえるかもしれません。しかし、我が国では少子高齢化、人口減少が加速しており、今後ますます人材確保が困難になっていきます。とりわけ私たちのような地方の中小企業、地場ゼネコンは、建築業界の「3K」イメージも相俟って、リクルート面では大変苦労します。
だからこそ、敢えて立派な新社屋を建設しました。就職を控えた優秀な若い人たちが会社訪問、面接等で当社を訪れた時、思っていたイメージとの違いに驚き、ここで働いてみたいと思う、そして、自分の会社だと人に自慢できる社屋で働く、そんな想いを持てる器としての社屋を目指し、今回のプロジェクトを決断したわけです。

外観写真
エントランス写真
エントランス

災害時には地域住民の避難場所にもなる大会議室やトレーニングルーム等を備える

ー近隣住民の災害時の避難にも対応できる大会議室や健康増進のためのトレーニングルームなど、新社屋の特徴や魅力などをご紹介ください。

門屋:実は設計段階では、大会議室は4階にする計画でした。どの企業や団体等のビルでも、社内目的の会議室は上の階とするのが一般的です。しかし、私は「それは違う」と考え、敢えて1階に多目的に使える空間としての大会議室(七曲りホール)を作りました。
何故か、それは門屋組が地域と共にある会社だからです。南海トラフ地震も想定される中、災害時には、地域の皆さんの避難に対応できる、そして、平時には、地域の皆さんによるイベント等にも利用いたただくことができるように、そう考えて、当初の設計を見直しました。
また、私はコロナ前、相当に太っていて、決して健康とはいえない状態でした。これではいけないと考え、筋トレを行うなど、運動するようになると、身体が変わるだけではなく、ものの考え方も大きく変わり、以前よりポジティブになりました。
この経験から、健康の大切さを痛感したので、全社挙げて「健康経営宣言」を行なったわけですが、新社屋の中にも、社員の健康増進につながるスペースを設けたいと考えました。
運動するだけならば、社員各自がトレーニングジムに通えばいいという発想もあるかもしれませんが、私は職場である社屋の中に、トレーニングルームとゴルフシミュレーターを設けました。門屋組として、社員の皆さんの健康増進を真剣に願っているという想いを発信したい、さらには、少しずつでも空き時間があれば、気軽に体を動かしてもらいたい、そう考えての設備投資です。

大会議室(七曲りホール)
トレーニングルーム
ゴルフシミュレーター

もう1つ、大きな特徴は社員食堂です。ただの食堂ではなく、鉄板焼きも楽しめる大きなテーブルを備えています。時々は、ここで焼肉を食べながら、社員とワイワイ、親睦を深めたいと考えてのことです。
オフィスとしては、3階が総務部以外、建築部と企画設計部、営業部のすべてが活動する場所となっており、一体的に相談事もできるように、フリーデスクと上下可動式テーブル、コーヒーブースなどを完備しています。
そして、内装には、通常の社屋では使わないような立派な壁材や床材、化粧材を使っています。お客様はエレベーターを使っていただくため、階段は社員専用のようなものですが、こうした人目にふれないところにも、同様の床材等を使用しています。

社員食堂
上下可動式テーブル、コーヒーブース
4階会議室

新社屋自体は、着工から2年10ヵ月、2023年5月10日に竣工し、その5ヵ月後の10月6日、駐車場アプローチをはじめとして、芝生と木々の緑地などの外構工事も完成しました。新たにリニューアルした台座の上には、里帰りした七曲り遍路地蔵が鎮座し、道行くお遍路さんと地域の皆さんを見守るような佇まい。お遍路さんが呼出しボタンを押せば、本社受付につながり、お茶のおもてなしも行えるようになっています。
完成までに予定以上の時間を要したのは、社会経済が本格的に動き始め、人手不足となる中、新社屋建設に携わっていた人材をお客様から発注いただいた物件に回したからです。建設屋にとって、工期遅延はご法度ですが、そこは逆転の発想で、「門屋組はお客様第一です。お客様を優先させます」という姿勢を強くアピールすることにもなりました。
新社屋の完成には感慨深いものがあり、私はブログに「明治43年(1910年)創業、創業者(門屋留一郎)→2代目(門屋知照)→3代目(門屋齊)→4代目(門屋光彦)の一気通貫なる想いはカタチとなり、数々の試練を乗り越えてきた株式会社門屋組は、新しい拠点から立ち上がる」と記しました。

里帰りした七曲り遍路地蔵
お遍路さん呼出しボタン

期待を超えるサービスを提供するため、「感動していただこう」を社訓に加える

ーさて、門屋組は2024年1月10日、114回目の創業記念日を迎えられます。その長い歴史の中、創業者以来、「誠実一途」と「顧客本位」を伝統精神として受け継いでこられました。改めて、門屋組の歴史をつないできたアイデンティティ、DNAについてお願いします。併せて、大切にされている3つの社訓に込めた思いもお願いします。

門屋:「誠実一途」と「顧客本位」の2つは、創業者から1世紀を超えて脈々と受け継がれてきた伝統精神です。
この明治以来の伝統精神を私が現代風に解釈し、改めて経営理念として掲げています。
即ち、「誠実一途」とは、<己を律し、友を信じ、未来を見据え、人と人、人と地域、人と建物の信頼関係を築き、決して裏切らない姿勢を貫きます>。また、「顧客本位」とは、<「おかげさまで」の感謝の気持ちを持って、常に顧客と従業員の立場で考え行動し、期待を超えるおもてなしで感動をお届けします>となります。
さらに、私が社長になると、門屋組が伝統精神とすべき3つ目の理念として、<地図に歴史に人の心に留まる建物を見守り続けます>を加えました。
私たちは、造らせていただいた建物を人と同じだと考えています。人が1歳、5歳、10歳と歳を重ねていくように、建設から1年、5年、10年と、私たちは発注いただいたお客様に手紙を送っています。それは、建物をいつまでもメンテナンスし続けます、見守り続けますという想いがあるからです。
また、創業以来「満足していただこう」、「信頼していただこう」を社訓に掲げてきましたが、創業100周年を機に、顧客満足度のさらなる向上を図り、期待を超えるサービスを提供していこうと、「感動していただこう」を社訓に加えました。
事業を営む者としては、満足いただく、信頼していただくは、当たり前のこと、最低限果たしていくべきです。この「満足」の領域を超え、「感動」という高みを追求してこそ、お客様に心から喜んでいただくことができます。
例えば、ディズニーランドは、何回行っても新たな発見や感動があります。毎回、同じものを見せるのではなく、イベントやリニューアルなどで進化し続けることによって、新たな感動を提供しています。私たちも、そんな想いを持ち、日々精進しながら建物づくりに挑み続けます。

門屋光彦社長写真

地元企業2社とのJVで受注し、道後温泉本館の保存修理工事を手掛ける

ー門屋組は民需を中心として、商業・工業や文化・教育、医療福祉、一般住宅、土木、リニューアルと、幅広く新築工事等を手掛けておられます。この事業展開の中での門屋組らしい取組みに加え、レーベン松山三番町4丁目やエミフルMASAKIアミューズ棟別館などのほか、主な施工実績をご紹介ください。

門屋:私たちの完工実績の特色としては、公共工事が比較的少なく、民間工事が多いことが挙げられ、しかも、商業施設から医療・福祉施設、教育、文化施設、マンション、一般住宅など、オールマイティに建築に携わっています。同じお客様から何度も特命発注いただけることも、特色の一つであり、それは任せていただいた建物に満足、感動いただいているからであると自負しています。
現在、営業しながら進めている道後温泉本館の保存修理工事も、門屋組と㈱成武建設、㈱冨士造型の3社によるJVで請け負っています。
私たちには、地元ことは地元企業に任せてもらいたいとの強い思いがあり、それが受注につながりました。現在は、道後温泉本館保存修理工事も5年目を迎え、極めて順調に工事が進んできた結果、道後温泉本館は2024年7月、予定を半年前倒しで全館営業再開となります。
道後温泉は、神代からの日本最大の温泉であり、重要文化財の本館は、そのシンボル的な存在、レガシーです。この世界にも誇れる宝を子や孫の世代、未来につないでいくというのは、大変栄誉な仕事であると考えていますし、この仕事に携われたことに心から感謝しています。
新型コロナのパンデミックが始まってから3年余り、特に外食や観光関連、交通等の業界が大打撃を受けてきましたが、苦しんだのは道後も例外ではありません。観光客は戻りつつあるものの、さらなる賑わいを取り戻すためにも、道後温泉本館の全館営業再開への旅館・ホテル、商店街等の皆さんの期待は大きなものがあり、少しでも工期を短縮できたことは、道後の活性化に貢献できるものと考えています。
道後温泉本館の営業しながらの保存修理工事期間、少しでも多くの観光客に関心を持ってもらい、集客を図るため「リボーンプロジェクト」などが実施されました。本館を火の鳥などの鮮やかな絵を描いた幕で覆うという取組みです。
この前期工事で本館を覆った火の鳥ラッピングアートを再利用してはどうかと、工事を請けた3社が費用を負担し、ポニーキャニオンや手塚プロダクションのご協力の下、学校用テント30張を製作し、地元である道後、湯築の両小学校に寄贈しました。
こうした再利用が実現したのも、県外資本の大手ではなく、地元企業が工事を請け負い、行政と常に連携しながら、事業を進めてきたからだと考えています。

「リボーンプロジェクト」時の道後温泉本館外観写真。火の鳥ラッピングアートで覆っている。

「SDGs宣言」を行い、独自の社員への子育て支援や地域貢献活動などに取り組む

ー最近は企業においても、SDGsの達成に向けた取り組みが重視されていますが、貴社は「SDGs宣言」や健康経営宣言を行なっておられます。また、コロナ禍対策に使ってほしいと、門屋齊会長が県と松山市に3,000万円ずつ寄付し、感謝状を贈られました。この宣言や具体的な実践などをお願いします。

門屋:私たちは、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」に賛同し、独自の「SDGs宣言」を行いました。①感動していただこう②魅力あふれる職場づくり③環境対策④地域貢献ーという4分野にわたる取組みですが、その多くは従前から行なってきたことで、それにプラス、新たな取組みを加えました。
「感動していただこう」では、お客様の満足を第一に考え、安心してお使い頂ける建造物を提供するとともに、優れた技術提案、技術提供によって、お客様満足のさらなる向上を目指します。
具体的には、最新テクノロジーの導入や安全パトロールによる安全管理の徹底、設計から施工、アフターメンテナンスに至るまでの一貫体制の建築などに取り組みます。
新たな活動としては、当社及び協力会社、作業現場等に自動販売機を設置し、その売上の一部を寄付し、国内外の貧困問題解決や被災地支援などに役立てることを始めました。その第1弾としては先般、ウクラナイ支援とトルコ・シリア地震の被災者支援・子ども食堂の応援を目的として、県と松山市に合計90万円を寄付しました。
また、「魅力あふれる職場づくり」では、社員一人ひとりが働きやすい職場環境を整備するとともに、地図に、歴史に、人の心に留まる建物づくりを通して、働きがいのある魅力あふれる職場づくりに努めます。
具体的には、「健康経営」にも通じますが、アニバーサリー休暇やリフレッシュ休暇、就業規則へのハラスメント禁止の明記、配属者も含め、会社負担で全社員の人間ドック受診(年1回)、奨学金返還支援制度、様々な資格取得支援、会社負担によるスポーツジム利用補助などがあります。
さらに、未来につなぐ子育て支援としては、社員の子ども1人につき月額5,000円、年間にして6万円を支給します。1人につきですから、子ども2人ならば12万円、3人ならば18万円になります。
この支給については、男性社員の場合、その配偶者に会社に来てもらい、私から現金を手渡します。その際、いろいろとお話しさせていただきますが、最後には必ず、「旦那さんを支えてあげて下さい」とお願いします。
そして、「環境対策」では、太陽光発電システムの導入や「森のあるまちづくりをすすめる会」による記念植樹、工事におけるNETIS(新技術情報提供システム)登録機会の積極活用などに取り組んでいます。
最後に、「地域貢献」ですが、全社員による週1回の本社周辺の清掃活動や工事現場周辺の清掃活動、BCP(事業継続計画)策定、災害時備蓄品の確保及び社会福祉団体への寄贈、地元チームへの多面的な支援によるスポーツ振興などを実施しています。
一方、門屋会長による寄付はあくまで、父個人によるものです。私と母が父に、私たちに財産を残す必要はない、自分の想いに従い、何か社会貢献できることに投じてはどうかと勧め、父が自らの意志で決めました。
丁度、新型コロナのパンデミックから1年余り、飲食店等が大変な苦境に立たされ、行政による支援が求められていた時期です。松山市には新型コロナ対策に使ってほしいと、また、県には新型コロナ対策応援基金にということで、それぞれに3,000万円を寄付させて頂きました。

社員のモチベーションと生産性を上げ、潜在能力の最大限発揮を

ー門屋組のHPでは、創業200年を見据えたカウントダウンの時計も表示されています。200年を睨んでは、今後、どう経営に取り組んでいかれるのか、力点を置かれる事業や新規事業へのチャレンジなど、社長の想いと併せてお願いします。

門屋:4代目を継いだ時からの最も強い想いは、創業100周年を迎えたら、門屋組の歴史的な歩みをゼロにしてリスタートすることでした。つまり、創業101年目は1年目、102年目は2年目と新たな歴史をいちから歩んでゆくということです。
ウサギとカメの童話がありますが、何故、歩みののろいカメがウサギに勝てたのでしょうか。ウサギはいつでも追い越せると油断し、カメの背中しか見ていませんでしたが、カメをずっと先のゴールを見据えて黙々と歩みを進めました。
企業も同じです。同業他社の背中ばかり見ていても勝ち抜くことはできません。先にあるゴールを見据えてこそ、「坂の上の雲」ではありませんが、天空に浮かぶ一朶の雲に辿り着くことができるのです。そんな気持ちで創業200年に向け、新たなる旅立ちを始めています。
今後の事業展開ですが、門屋組は父の代まで、マンション建設に手をつけませんでしたが、私が社長に就任すると、マンションにチャレンジし、経験を積み上げてきました。私たちは受注産業ですから、年によって売上に波があり、景気にも大きく影響を受けます。コロナ禍では大変苦労しましたが、結果的には、マンション建設に進出したことが助けになりました。
ただし、これは本業の延長線上の事業拡大です。少なくとも私が社長の間は、異業種に参入する考えはありません。不動産など、本業の周辺業務の深掘りはあったとしても、あくまで本業に集中し、さらなる磨きをかけていきます。
それによって、中長期的にきちんと利益を出し、それを地域貢献にもつないでいける堅実な経営体質を築いていきます。
私が4代目になってからも、社員数は大きく変わっていませんが、売上高は就任前に約30億円だったのが、2022年には過去最高の約78億円にまで伸びています。
社員はそれまで、素晴らしい潜在能力があるにもかかわらず、すべてを出し切れていませんでした。しかし、社員のモチベーションと生産性を上げる取組みを進めてきたことにより、今では潜在能力を最大限に発揮してくれています。これからも決して現状に甘んじることなく、チャレンジ精神を常に持ちながら社員一丸となって目標に向け前進してまいります。